レーダーのドップラー(速度計測)

径方向速度がドップラー周波数 f_d = 2v/λ を生む理由を導き、速度分解能 Δv = λ/2T_obs と速度アンビギュイティまでを示す

区分導出
版1.0
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規格IEEE Std 686-2017(IEEE Standard for Radar Definitions)

何が求まるか

目標の径方向速度 vv が生むドップラー周波数 fdf_d が求まる。レーダーは距離だけでなく速度も測れ、その情報源がこのドップラーシフトである(パルス vs FMCW では距離に絞ったので、その速度側の完成にあたる)。あわせて、どれだけ細かく速度を分けられるか(速度分解能)と、どこまで曖昧なく測れるか(速度アンビギュイティ)も求まる。

結論式

fd=2vλ,v=fd λ2f_d = \frac{2v}{\lambda}, \qquad v = \frac{f_d\,\lambda}{2} Δv=λ2 Tobs,vmax⁡=±λ PRF4\Delta v = \frac{\lambda}{2\,T_{\mathrm{obs}}}, \qquad v_{\max} = \pm\frac{\lambda\,\mathrm{PRF}}{4}

vv は径方向速度(近づく向きを正)、TobsT_{\mathrm{obs}} はコヒーレント積分時間、PRF はパルス繰返し周波数。

適用範囲と前提

  • モノスタティック。 因子 2 は送受同一の帰結(下記導出)。バイスタティックでは幾何に依存した係数になる。
  • 径方向成分のみ。 実際に効くのは視線方向の速度 vr=vcos⁡θv_r = v\cos\theta(θ\theta: 視線と速度のなす角)。真横に横切る目標(θ=90°\theta = 90°)はドップラーが 0 で、速度が見えない。
  • 非相対論(v≪cv \ll c)。車載・航空の速度では v/c∼10−7v/c \sim 10^{-7} で、相対論補正は不要。
  • コヒーレント処理。 位相を保った積分ができること。Δv\Delta v と vmax⁡v_{\max} はこの前提で決まる。

計算機

入力待ち(まず波長 or 周波数を入れる)。

前提: モノスタティック・非相対論。v は径方向成分(近づく向きを正)。本文「適用範囲と前提」を参照。

導出

因子 2 はどこから来るか。 目標が径方向速度 vv で近づいているとする。送信周波数を ff とする。

(1) 目標が受ける周波数。 目標は「動く受信機」として、ドップラーで高い周波数を受ける:

f′=f(1+vc)f' = f\left(1 + \frac{v}{c}\right)

(2) レーダーが受け取る周波数。 目標はその f′f' を反射する「動く送信源」でもあるので、もう一度ドップラーがかかる:

f′′=f′(1+vc)=f(1+vc)2≈f(1+2vc)f'' = f'\left(1 + \frac{v}{c}\right) = f\left(1 + \frac{v}{c}\right)^2 \approx f\left(1 + \frac{2v}{c}\right)
周波数×(1+v/c)×(1+v/c)fd = 2v/λf送信f′目標が受信f″レーダー受信
図: 送信 f から二段のドップラーシフトで受信 f″ に至る。因子 2 はこの 2 回ぶん(目標が「動く受信機」かつ「動く送信源」)。

よってドップラー周波数は

fd=f′′−f≈2fvc=2vλf_d = f'' - f \approx \frac{2fv}{c} = \frac{2v}{\lambda}

因子 2 は、目標が「動く受信機」かつ「動く送信源」の二役を演じるためである(往復で 2 回シフトする)。距離が往復で R4R^4・ct/2c t/2 になるのと同じ、モノスタティックの往復の帰結。

速度分解能。 コヒーレント積分時間 TobsT_{\mathrm{obs}} の FFT で見分けられる周波数差は Δfd=1/Tobs\Delta f_d = 1/T_{\mathrm{obs}} である。なぜこの値になるかは、近い 2 つの周波数が作る「うなり」で決まる。周波数差 Δf\Delta f の 2 波の位相差は時間とともに 2π Δf t2\pi\,\Delta f\,t で開いていき、これが 2π2\pi 進む間に合成波は強め合い→打ち消し→強め合いと一巡する。うなり 1 周期にかかる時間は Tbeat=1/ΔfT_{\mathrm{beat}} = 1/\Delta f。Δf\Delta f を読み取るにはこのうなりの周期を測る必要があり、周期を測るには最低 1 周期(大→小→大)を観測しなければならない。この 1 周期が観測時間 TobsT_{\mathrm{obs}} に収まってはじめて 2 波を別物として分離できるので、分離条件は Δf≥1/Tobs\Delta f \ge 1/T_{\mathrm{obs}}、すなわち最小分解幅が Δfd=1/Tobs\Delta f_d = 1/T_{\mathrm{obs}} となる(長く観測するほど FFT のビンが細かくなるのと同じ)。この Δfd\Delta f_d を fd=2v/λf_d = 2v/\lambda を通して速度に直すと

Δv=λ2 Δfd=λ2 Tobs\Delta v = \frac{\lambda}{2}\,\Delta f_d = \frac{\lambda}{2\,T_{\mathrm{obs}}}

長く見るほど速度は細かく分かる。距離分解能 ΔR=c/2B\Delta R = c/2B が帯域で決まるのと対をなし、速度分解能は観測時間で決まる。

速度アンビギュイティ。 パルスレーダーはドップラーを 1 パルスにつき 1 回、すなわち PRF で標本化する。標本化定理より ∣fd∣≤PRF/2|f_d| \le \mathrm{PRF}/2 を超えると折り返す。fd=2v/λf_d = 2v/\lambda を代入して

∣v∣≤λ PRF4≡vmax⁡|v| \le \frac{\lambda\,\mathrm{PRF}}{4} \equiv v_{\max}

これを超える速度は、別の速度に化けて見える(エイリアシング)。映画で前進する車のホイールが止まって/逆回転して見えるのと同じで、パラパラ漫画のように間欠的(PRF 間隔)にしか見ていないため、1 コマの間に位相が進みすぎた目標は「一番近い遅い動き」に誤認される。PRF を上げる(コマ数を増やす)ほど速い目標まで正しく測れる。

真の速度測定速度+v_max−v_max正しく測れる折り返し折り返し
図: 測定速度は ±v_max の内では真の速度と一致するが、外に出ると折り返して別の速度に化ける(エイリアシング)。

距離アンビギュイティ(PRF を上げると縮む)と速度アンビギュイティ(PRF を上げると広がる)は PRF に対して逆に動き、両立にはトレードオフがある。

数値例

10 GHz(λ=0.03 m\lambda = 0.03\ \mathrm{m})のレーダーに、v=30 m/sv = 30\ \mathrm{m/s}(約 108 km/h)で近づく目標(数値は架空の丸い例)。

ドップラー周波数:

fd=2×300.03=2000 Hz=2 kHzf_d = \frac{2 \times 30}{0.03} = 2000\ \mathrm{Hz} = 2\ \mathrm{kHz}

Tobs=10 msT_{\mathrm{obs}} = 10\ \mathrm{ms} の積分での速度分解能:

Δv=0.032×0.01=1.5 m/s\Delta v = \frac{0.03}{2 \times 0.01} = 1.5\ \mathrm{m/s}

PRF=10 kHz\mathrm{PRF} = 10\ \mathrm{kHz} での一意速度範囲:

vmax⁡=0.03×1044=75 m/sv_{\max} = \frac{0.03 \times 10^4}{4} = 75\ \mathrm{m/s}

つまり ±75 m/s\pm 75\ \mathrm{m/s} までは曖昧なく測れる。ちなみに車載の 77 GHz(λ≈3.9 mm\lambda \approx 3.9\ \mathrm{mm})なら、同じ 30 m/s でも fd≈15 kHzf_d \approx 15\ \mathrm{kHz} と約 8 倍大きく、波長が短いほどドップラーは取り出しやすい。

ありがちな誤り

  1. 因子 2 を落とす。 fd=v/λf_d = v/\lambda ではなく 2v/λ2v/\lambda。モノスタティックでは往復で 2 回ドップラーがかかる。片道のリンク(受信機だけが動く)なら v/λv/\lambda だが、レーダーは目標が反射する二役なので 2 倍。
  2. 径方向速度と全速度を混同する。 効くのは vr=vcos⁡θv_r = v\cos\theta。真横に通過する目標はドップラー 0。目標の実速度を求めるには角度情報が要る。
  3. 距離アンビギュイティと速度アンビギュイティを同じ向きに考える。 PRF を上げると一意距離は縮み、一意速度は広がる。逆向きなので、両方を欲張ると衝突する。
  4. 速度分解能を帯域で決まると思う。 距離分解能は帯域 BB、速度分解能は観測時間 TobsT_{\mathrm{obs}}。決める量が違う。
  5. 相対論で補正しようとする。 v≪cv \ll c では (1+v/c)2≈1+2v/c(1+v/c)^2 \approx 1 + 2v/c の一次近似で十分。二次以上は無視できる。

用語メモ

本文で使った用語の平易な説明。厳密さより、本文のイメージをつかむことを優先している。

  • ドップラー効果 — 近づく音源の音が高く、遠ざかると低く聞こえるあれ。電波でも同じで、近づく目標からの反射は周波数が上がる。その上がり幅が速度を教えてくれる。
  • 径方向速度 — レーダーから見て「まっすぐ近づく/遠ざかる」向きの速度成分。斜めに動く目標は、その視線方向の分だけがドップラーに効く。真横移動は 0。
  • コヒーレント処理 — 波の位相をそろえたまま複数のパルスをためて処理すること。位相をそろえるからこそ、わずかな周波数差(速度差)を FFT で見分けられる。
  • PRF(パルス繰返し周波数) — 1 秒間に何発パルスを撃つか。ドップラーはパルスごとに 1 回しか測れないので、PRF が速度の「サンプリング周波数」になる。
  • アンビギュイティ(曖昧さ) — サンプリングが粗いと、速すぎる目標が別の遅い速度に化けて見える(折り返し)。測れる範囲を超えた分が本物と区別できなくなる現象。
  • ドップラー FFT(2nd FFT) — FMCW 車載レーダーで、複数チャープにまたがって位相の変化を FFT すると速度が出る。距離用の FFT(1st)に続く 2 段目。
  • FFT のビン(bin) — FFT は周波数を連続でなく、とびとびの点で出す。その 1 点 1 点が「ビン(入れ物)」で、信号のエネルギーは一番近いビンに落ちる。長さ TobsT_{\mathrm{obs}} の信号ならビン間隔は 1/Tobs1/T_{\mathrm{obs}} [Hz] になり、これがそのまま見分けられる最小の周波数差(=速度分解能の正体)。長く観測するほどビンが細かくなる。

出典

更新履歴

版日付変更内容
1.02026-07-30初版(ドラフト)

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